お彼岸に
川の向こうから、カラフルな帆の船が進んでくる。何隻も何隻も。
これはベトナム名物なのだろうかと、動画を撮影する。久しぶりにインスタのストーリーをあげようか。
少し画角を広めにとると、川岸に赤い彼岸花がたくさん咲いていることに気づく。
ベトナムにも、彼岸花なんてあったのか、と思う。
雑居ビルのエレベーターをのぼったところにあったのは、味気ない立ち飲み屋で、そこにいたのはとても久しぶりに会う人だった。
「え? 生き返ってったんですか? 言ってくださいよ~」
驚きと嬉しさで少しテンション高く言うと、「うん、まぁ」という味気ないさっぱりした返答。
そう言われるとたしかに、個別に連絡をもらえるほど、生前に仲が良かったわけではない。
ふと振り返ると、奥にある小上がりに無数のオレンジ色の座布団が、散乱している。
テンションの上がった娘が座布団に勢いよくのって、そりのように滑りはじめた。
せっかくなのでもう少し話していたい気はしたけれど、座布団ごと小上がりから飛び出していきそうな娘に、慌てて駆け寄った。
***
夢のなかでは、わぁきれいだな、久しぶりだなと喜んでいたけど、起きてぼんやり考えると、
彼岸花の川辺に行って、亡くなった人に会う夢って、ちょっと意味深だ。
前の日、娘がはじめて、仰向けのまま床を蹴って、勢いよく頭側に移動し、お昼寝マットから飛び出しそうになった。
「背ばい」というものらしく、はいはいをする前にこの動きをする赤ちゃんがいるらしい。ルンバのように背中で縦横無尽に移動する赤ちゃんの動画もあって、慌てて安全対策を検索したのだった。
最後の座布団は、これが脳に残っていたのだろう。
久しぶりに会った人は、なんででてきたのだろう。
授乳をしながら、ぼんやり考える。
……あ、鳥山明だ。
娘が産まれてから、鳥山明先生、水木しげる先生、臼井義人先生の子どもキャラの作画は、単にかわいいだけではなく、けっこうリアルに近いことに気づいた。
娘の丸顔の下のほうに寄った目や口のパーツ配置は、アラレちゃんにでてくるガッちゃんと同じだし、
口と首をすぼめて猫背で眠る姿を見ると、今日は水木先生作画だなと思う。
後ろ姿からはみ出すたぷたぷとした頬を見て、「クレヨンしんちゃんのシルエットって、リアルだったんだって思うよね」と、先輩お母さんがしみじみ言っていた。
なかでも、つい先日亡くなった鳥山明先生の描く子どもは、かわいいなぁと以前よりまじまじと見るようになった。
そして、夢に出てきた人との最後の会話で、
「祖母が、鳥山明先生のお母様と知り合いだったかもしれないんですよ」
という曖昧な自慢話を私はしていた。
実際、時期や地域的にありえはするけれど、「うちの息子が漫画描いているのよ」という話を聞いたというだけなので、他の漫画家さんかもしれないし、確かめようがないし、真実だったとしても縁が遠い。
でも、ドラゴンボール世代としてはちょっと嬉しい気がするので、気楽に聞き流してくれる人には、ついしてしまう話だった。
そういえば、夢のなかでの「普通に生き返ってたけど?」というかんじのしれっとした表情は、その曖昧な自慢話への半笑いのリアクションに近かった。
忘れられないと思っていたその会話は、月日が経って思ったよりも奥にしまわれていて、鳥山明スイッチで久しぶりに蘇ったようだった。
夢を見たのは、3月19日のことだ。
日本にいないと、お墓参りも行けないし、スーパーでおはぎを見ることもないので、すっかり忘れていたけれど。
その日がちょうどお彼岸中だと気づいたのは、夕方にインターネットを見ているときだった。
***
インドア気味の生活だからか、久しぶりの配信で、また夢ネタになってしまいました。
ベトナムグルメ情報なども書きかけているので、今度からまた現実の話に戻ります!
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