フィクションを書く効用

[日曜の窓辺からVol.46]最近、脚本、ショートショート、漫画原作を書いてます。
やすむ 2023.10.08
誰でも

フィクションを書くのは恥ずかしい。

そう思うようになったのは、いつからだろう。

はじめてフィクションを書いたのは、たしか幼稚園のとき。『おやゆびひめの大冒険』というのを紙に書いて、本の形に折った。

当時、『天才えりちゃん』という6歳の子が妹について書いた童話がはやっていて、私のおやゆび姫のほうがいいのにと思っていた。尊大な子供だった。

16歳のとき、一度だけ小説コンテストに応募した。送られてきた記念品のペンかなにかを受け取った父が、ふざけて「入賞おめでとうございます」と言ってぬか喜びして(実際は、落選したから記念品が送られてきた)、私の尊大さはしゅんとした。父は、デリカシーがないと、家族にそうすかんをくらっていた。

送ったのは、当時憧れていた中東とオランダの世界観をまぜたような世界観の、オチのない話だった。

大学にはいってはじめての一人旅はオランダに行ったし、仕事は中東部署に配属されたから、そのときの気持ちはそれで昇華した気がしていた。

きっかけは、もう一つある。

20代の頃デートしていた人に、数学好きな人がいた。待ち合わせ場所の表参道ヒルズに行ったら、ベンチに座ってルーズリーフに数式を書いていて、いいなと思った。

何度目かのデートで本が好きだと言ったら、自作の短篇小説が送られてくるようになった。小説と言っても、それっぽい文章は並べられているだけのものだ。陶酔しているかんじだなというのだけが、伝わってくる。

数学のことで散々すごいやらなにやら言っていたので、彼は当然、小説にもポジティブな感想を期待している(ように見えた)。でも、どこを拾えばいいのかわからない。

なにより、彼が「自分は小説をまったく読まないからこそ、オリジナリティがある」と、豪語するのが嫌だった。読んだこともないのに、それより自分が優れていると言うなんて、傲慢すぎる。

……とは言えない小心者で、適当にセリフの意図などを質問してやり過ごし、フェードアウトした。

そんな過去の思い出が沈殿しているからか。

自分がフィクションを書くことが、いつからか恥ずかくなっていた。自己陶酔に、人を付き合わせて困らせてしまう気がする。

ノンフィクションの文章を公開するのに、そこまで抵抗はない。今の時代、公開している人が、いくらでもいるからかもしれない。

もちろん内容によってどきどきすることはあるけれど、最近は、美容院でせっかく髪を切ったんだからツッコんでほしいくらいの気持ちで、書いたら人に見てほしいという感覚さえもある。

一方で、最近書いていて楽しいのは、フィクションだ。5月にオンラインの脚本ゼミに通いはじめてから、はまっている。

藤井隆のモノマネが上手だった親友のこと。
神社までのドライブで、梅の花が見えて、みんなで歓声をあげたこと。
お弁当に納豆を持ってきていた先輩のこと。  

エッセイにするほど脈絡はないけれど、そういうきらきらして好きだった瞬間を、散りばめられるのが面白い。


プライベート過ぎて実話としては書きたくないことの断片。
人にはあえて言わないけれど、すごくムカついたこと。
あえて相手には伝えなかったけど、魅力的だなと思った人のこと。

そういうことだって、書ける。

先程の数学好きの人を思い出したのがきっかけで書いた話は、意外にもゼミの仲間に一番好評だった。当時はわりと真剣に悩んだのだけれど、真剣に悩んだことほど、フィクションにはいいのかもしれない。

書き始めて5ヶ月、これ、気持ち悪いかなという思いはまだあるものの、近頃まぁいっかと人に見せられるようになってきた。

ーーーーーー

そんな流れで、ただ楽しく書いたものを、9月末締切のショートショートと、漫画原作の公募に出してみました。

生活必需品ではないけど、机や棚にあると安心するので、日本から持ってきたものたち。

生活必需品ではないけど、机や棚にあると安心するので、日本から持ってきたものたち。

▼漫画原作で応募したもの(note公開で応募するという、今っぽい&緊張する形式で、ちょっと呼吸が早くなりながら、公開ボタンを押しました)

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