逆カルチャーショックの記録【Vol. 1】素晴らしき日本のお寿司と滑らかさ
トルコから帰ってきたとき、空港のヤマト運輸の男性が、囁くようにソフトに話していて驚いた。
この国では、腕力が必要とされるような職種の男性も、接客ではこんなふうに話すのだ。
アニメの萌えキャラが、至るところにいるのも、新鮮だった。
駅の大きな美少女キャラの絵。コンビニで急に流れてくるキャラの声による宣伝。
働く大人たちは、誰もぎょっとせずに、受け取っている(のかスルーしているのか)。
カメルーンの村から帰国した友人は、街の看板の情報量の多さに、読むものが多くて疲れると言っていた。
たしかに、その前の年に訪れた彼女が住んでいた村は、赤土と木に、ぽつぽつと家や商店があるばかり。商店の情報も、壁に直接描かれた絵だった気がする。
当時東京10年目だった私は、そう言われるとそうだなと、街の看板を見上げた。

カメルーンの村。偉い人の家の壁も、絵が目印。
1年半のベトナム生活から、先日帰国した。
帰国した初日のメモには、お寿司がおいしすぎて、朝昼おやつに食べたと書いてある。
ベトナムにもお寿司はあって、それはトルコや他の国で食べたものよりも、だいぶ日本のものに近かったので、そこまで欠乏感はなかったのだけれど。
駅中のお寿司の美味しさと安さに、感動した。特に青魚のさっぱりとしたおいしさといったら。
スーパーのお刺身コーナーには、2ヶ月経った今もわくわくしている。

お寿司を食べたあとに、おやつで買ったお寿司。見返すと、やばい量。
今回はwith赤ちゃんでの初日本でもあった。
本人は国が変わったことに、おそらく気づいていないが、親としては違いが興味深かった。
住んでいたホーチミンは、バイク社会。
歩行者優先の概念は薄く、歩道にもバイクが走る。
そもそも歩道もでこぼこなので、ベビーカーは、マンションの敷地内かショッピングモールくらいでしか使っていなかった。
それが日本では、どこまでも滑らかな道を、ベビーカーで進んでいける。
歩道がない住宅街の道であっても、歩行者用の白い線の中をゆっくりと進める。
マンションの敷地で、南国らしいプルメリアの木を一緒に見上げるのも、よかったけれど。
さわさわ揺れる街路樹を娘と見上げながら、ゆったり歩く幸せを味わった。

プルメリアの木。

日本の並木道。
滑らかなのは、道だけではない。
行政サービスが、滑らかすぎる。
ベトナムであった、今回は手続きうまくいくかな……?という不安がない。
(手続きプロセスがちょくちょく変わったり、担当者が微妙だといつまでも待たされたりする)
市役所に行けば、コンシェルジュのように職員の方が近づいてきて、優しくどの受付にいけばいいか教えてもらえる。
今住んでいる自治体の職員の方が、特に親切というのもあるかもしれない。
些細な質問にも明瞭な答えがかえってきて、すぐに情報照会もしてもらえる。
申請した書類はすぐ届く。
さらに赤ちゃんがいるとなると、山ほど子育て情報の冊子や支援情報のパンフレットがもらえる。
ベビーカーで入れる地域のお店マップとか、心配になったら電話する先とか。
予防接種や検診は、届く書類とアプリに沿えば、なにも調べる手間はなく、無料で受けられる。
無料で開放している広場はきれいだし、保育のプロの人もいる。
無料で参加できる、ヨガやマッサージクラスもある。
ホーチミンでのナニーさんの相場と同じ600円/時で、安全に配慮された一時保育もお願いできる。
家に絵本も届いた。

帰国してしばらくしたら届いて、びっくり。
ホーチミンのマタニティヨガで一緒になり、出産前からなにかと情報交換していた友人が、子連れで初の一時帰国をしたさきから、日本すごいよ……!とLINEをくれたことを思い出す。
自治体だけではない。
ショッピングモールなどの施設には、だいたいきれいなオムツ替えスペースや授乳室がある。
「ご自由にお測りください」と、体重計まで置いてあったりもする。
ホーチミンでは、オムツ替えスペースがある施設は数えるほどしかなくて、先輩お母さんにそのスポットや、ない場合のコツや便利グッズを教えてもらった。
振り返るとベトナムでは、行政サービスや施設が充実していないぶん、人にいろいろと教えてもらっていた。
でこぼこ道のベビーカーも、使う機会は少なかったものの、手こずっていると誰かが手を貸してくれた。
だから、日本の滑らかさは、個人が手を差し伸べたり、手を借りる必要性を極限まで減らしているんじゃないか、と思ったりもする。
(Vol. 2につづく)
——
一足遅れて届いた船便の片付けも終わり、日本生活が落ち着いてきました。
帰国直後いろいろ思うことはありつつも、出羽守かなぁとしばらく書けずにいました。
ただ2ヶ月経っても、わりと印象は変わらず。
まだ出羽守な気もするけれど、まぁ今感じていることとして書けばいいのかと思ったので、お送りします。
▼カメルーン帰りの友人と、かつてつくった逆カルチャーショック漫画。
作画してくださった大越さんの漫画力に、毎度感動していました。
(素敵な世界観で、今クイックジャパンで連載されてます!)
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