通訳付き・プロ美容師の流儀

[日(月)曜の窓辺からVol.43]ホーチミンの韓国系サロンに行ってみました。
やすむ 2023.09.11
誰でも

ここ何年か、韓国のヘアスタイルが好きだ。

日本でも、韓国系が得意という美容師さんのところに行っていた。ただメイン顧客は韓国アイドル好きな若者というかんじの若い美容師さんで、なんとなく私には若作りっぽい仕上がりな気がして、行くのをやめてしまった。

ここホーチミンには、たくさんの韓国系美容院がある。韓国の人が多いし、なにより日本の若者以上に、韓国ドラマやファッション好きが多い。

夫の20代同僚女性たちも、嬉しそうに「オッパー最高♡ 」と言っていた。

はじめは知らない英単語かベトナム語かと思ったら、まさかの韓国語で、韓国のイケメンに夢中ということだったらしい。

(オッパーは、韓国語の「お兄さん」という意味で、ファンが俳優やアイドルを呼ぶときにも使う言葉)

街では、韓国っぽい髪型や服装の若者をよく見かける。

そんなわけで、ここ何ヶ月か、私はわくわくとどの韓国系美容院に行こうと、InstagramやGoogleマップを徘徊していた。

そのなかで決めたのが、このサロンだ。

Googleで見ると、同年代〜歳上に見える女性も、違和感ない仕上がりで、それも安心。

好きな写真を担当している美容師さんで、インスタ経由で予約した。

美容院は高級住宅街の一角にあった。想像以上に立派な白亜の建物だ。

ベトナムの物価的に大丈夫だろうと思いつつ、インスタに値段が書いていなかったので、少し不安になる。

予約のときは気づいていなかったけれど、私が指名したのは、この店の韓国人オーナーだった。

ショートカットにふわふわとしたトップス、タイトな薄い色のジーンズに、白スニーカー。韓国ドラマの豪邸に住んでいそうなマダムというかんじがして(偏った韓国へのイメージ)、テンションが上がる。

この人なら、韓国の大人女性のヘアスタイルにしてくれそうだ。

席につくと、オーナーから韓国語で話しかけられた。

韓国の人と思われているのかなと(この街ではよくある)、「日本人なんです」と言おうとすると、側にいた金髪の切りっぱなしボブに黒シャツの若い女性が、さっと英語に通訳してくれた。

なんとオーナーはすべて韓国語で話し、傍らに通訳がつくというシステムらしい。

頭を触りながら、オーナーが話す。

「頭の形、よいです。これはとても重要なことです」と通訳の女性。

そこに言及するのは、なんだか韓国っぽい気がする。

続いて髪をぱらぱらと見ながら話すオーナー。

「今日はカットとトリートメントですね。傷んでいるので、トリートメントはこちらをお勧めすると言っています」

通訳とともに指された、メニュー表の値段を見て、ぎょっとした。

「これって、ベトナムドンですよね…?」

「そうです、少し、高いですよね」

日本円で3万円。

たしかに、ハイライトのブリーチをしたことと、ベトナムに来てしばらく家に備え付けのドライヤを使っていたことで、髪はこの何年かで最高に傷んでいた。

とはいえ、3万円は予算オーバーすぎる。

「あの、ダメージのある部分を切って短くしてもらうことはできますか?」

インスタにあった、オーナーが担当した短めのヘアスタイルを見せると、通訳がされる。

オーナーは、満足気ににっこり。

「もちろん、できますよ、と言っています」

オーナーのカットは丁寧だった。

時折、韓国語でカットの趣旨の説明が入る。髪が細いのに梳きすぎているのが痛む原因だろう、絡まないように重みをだしている、とか。

通訳経由だからか、「今日、このあとなにするんですか〜?」というような雑談はない。雑誌もない。

オーナーのカットを、通訳の女性と一緒に、真剣に見る。説明を、ふむふむ、なるほどと聞く。

これがとても心地よかった。

小学生の頃は美容師になりたかったこともあり、美容師さんの技を見るのが、もともと好きだ。

でも、日本の美容院だと、じっと見ていると、気を遣われて雑談がはじまったり、「雑誌、読んでていいですからね」と言われたりする(「技を見るのが好きなんです」というときもあるけれど、結局なんとなく雑誌を読むことが多い)。

ストイックに、髪を微調整するオーナー。

それをじっと見ることは、オーナーを指名したならば当然という雰囲気があった。

「今バランスを見て最終調整をしています。この細かな技術を体験したら、他のサロンには行けませんよ、と彼女が言っています」

笑いながら、通訳の女性が言う。

「本当ですね、そう思います」

そう言うと、鏡越しに、オーナーから誇らし気な笑顔が向けられた。

金額はカットとトリートメントで、9000円ほど。日本のけっこういい美容院くらいする。

ベトナムではかなり高額だが、傷んでいた髪がすっきりして、レイヤーたっぷりの、そして年相応な雰囲気の韓国ヘアになった。

なにより、本場韓国のプロに、韓国語で説明を受けながらカットしてもらったのだ。

そのエンタメ性含め、満足な時間だった。

———

トルコにいたときは、アジア人が少なく美容師さんも髪質に慣れないからか、ざく切りなシャギーヘアや、すごい細眉など、ちょっと面白い仕上がりになったりもしました。

一方で、世界のセレブの切り抜き集を渡されて、希望の髪型をそこから選べたのには、わくわく。

リアーナでお願いしたときは、顔が違いすぎてよくわからなかったものの、テンションが上がりました。

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