保育園落ちたソング/Goyukkuriフレッシュネス/わんわんの手前

[日曜の窓辺からVol.70]やっぱり忘れたくないから書いておこうかな、と思った春のこと。
やすむ 2025.12.07
誰でも

2025年3月某日 保育園落ちたソング

たまに行く高円寺の公園は、小さな子どもと親はもちろん、近くの施設の高齢者、缶チューハイを呑むおじさん、テンガロンハットのおばあさん、ギターケースを背負ったバンドマン、漫才練習中の若者……と、いかにも高円寺らしい多様性がある。

なんとか二次募集ですべりこむように、保育園が決まった週。

靴で歩きはじめたばかりの娘と、多様性公園に立ち寄る。ここには乳児用の小さなゾウの滑り台があるのだ。

娘がよいしょとゾウ滑り台の階段をのぼっていると、アコースティックギターの音が聞こえる。

20歳前後の二人の女の子が、テーブルベンチで向かい合って、ギターをかき鳴らしている。

一人は、ひらひらの服を着たツインテール。もう一人は、クールなショートヘアにパンツスタイル。

二人は顔を見あわせて、笑いながら歌う。

♪保育園落ーちた 保育園落ーちた♪

すごい歌詞だ。つい先日、保育園の一次募集に落ちて絶望していた身としては、より刺さる。

ゾウの頭にのぼりきった娘と、ほぉと二人を見る。

二人は本当に楽しそうに、ギターをならし、歌っている。

公園中に二人のギターと歌が響く。

気にせず、ぼんやりチューハイを飲むおじいさん。気にせず遊ぶ子ども。

別のテーブルで、「なんでやねん」と、自分たちの漫才を録音している若者たち。

私は20代のけっこう多くの時間を、高円寺で友達とくだらない話をして笑ったり、いまいち世の人に興味を持たれない作品やらなにやらをつくったりして過ごしたのだけれど、二人を見ながら、それってなかなか豊かな時間だったなと思い出した。

(帰って調べたら、バンド「水中、それは苦しい」の曲のコピーだったらしい。中毒性のある曲。)

2025年4月某日 Goyukkuriフレッシュネス

ものすごくかんじがよいフレッシュネスバーガーがある。

店員さんはいつもにこやかで、wifiの名前は「Goyukkuri」。ファストフード店とは思えない、ゆったりと居させてもらえる雰囲気だ。親子連れや、高齢の方々が多い。

「コーラスをちょうだい」

たくさんの布をまとった高齢の女性がぶっきらぼうに言う。

「コーラス…ですか」

とかんじのよい店員さん。

「そう、コーラス!」

コーラスってなんだろう、店員さんとともに、内心考える。

「あ、失礼しました、チュロスでございますね」

「あぁ、チュロスっていうのね」

「いえいえ、少々お待ちください」

なるほど、広告にオシャレに書かれているチュロスの英語”churros”は、コーラスっぽく読める。

読み間違えを指摘せずに、明るくチュロスを提供したことで、気まずい雰囲気にはならなかったようだ。

次に来たのは、お上品な高齢女性だ。

「こちらのおすすめはなにかしら?」

ファストフードでそれ聞く?と思いつつ、かんじのよい店員さんの反応が気になる。

「どんなものがお好みですか?」

「そうねぇ、おばあさんの集まりなのよね」

「それでは、ヘルシーなガーデンサラダバーガーなどいかがでしょうか」

「いいわね、ふふふ、私たちなんて、おしゃべりしながら口から胃まで急行直行だから、そういうのがいいわ!」

「よかったです。では、ご準備しますね」

なるほど、さすがと聞きながら、私もゆっくり過ごさせてもらった。

2025年5月某日 わんわんの手前

娘がはじめて声にした意味があるっぽい音は、実家の犬の吠え声のマネだった。去年の秋ごろ、実家に帰ったときのことだ。

かなりうまく、どっちが鳴いているかわからないときもあったほどだ。

人間の声よりも、かっこよく聞こえたのかもしれない。私も子どもの頃、犬の鳴き声に憧れてマネしていたけれど、もう小学生だったからか、こんなにうまくはできなかった。

そのうち実家の犬以外にも、犬がいるよ、犬が来たよというニュアンスで、「わぅわぉうぉーん(ひらがなで表しにくい)」というようになった。

よく犬の声を聴いていて、大型犬だと少し低めの吠え声になる。

それがこの春、保育園に行ってしばらくしてから、「わんわん」と言うようになった。

吠え声ではなく、ひらがなではっきり表記できるような人間の言葉。

犬の大きさに応じた吠え声のほうが、現実を詳らかに捉えていたかんじもする。

でも、「わんわん」という共通言語があることで、先生やお友達、これから会うまだ見ぬ人と通じあえるのは、きっととても嬉しいことだ。

勝手に少し寂しくなるのは、自分が社会や言葉の規範をどこか物足りなく感じているからだろうか。

———

春に仕事復帰をして、時間がなかなかなというのと、仕事でアウトプット欲が満たされていたかんじもあったのですが。

やっぱりそこからこぼれ落ちる書き残しておきたいものがあるんだよなぁと思い、また書きはじめてみました。

当初一応テーマにしていた異国感は少なめになるかもしれませんが、よろしければ気が向いたときにお読みください。

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