黄色の人たちとビーガン生活

[日(月)曜の窓辺からVol.28]ダラット高原のアシュラム滞在記、第2弾です。
やすむ 2023.03.20
誰でも

門をくぐると、なだらかな坂道があり、そのまわりの森に建物が点在していた。

このヨガの流派のキーカラーである、黄色の服を身に纏った人たちが、静かに歩いている。独特な雰囲気だ。

レセプションのある建物は、坂の中腹にあった。


建物に入ると、流派の創始者が笑顔でこちらを見ている、大きな絵に迎えられた。

天井の高いその部屋はがらんとしていて、レセプションデスクにも、人がいないようだった。

どうしたものかと思いながらも、デスクに近づき、向こう側を覗き込んで、ぎょっとした。

黄色いTシャツに白いニット帽を被った女性が、シャバアサナー(目をつむり仰向けになるリラックスポーズ。「屍のポーズ」ともいう)をしていた。

物音で気づいたのか、女性が慌てて起き上がる。

「チェックイン?」

レセプションの人も、ヨガの修練中ということなのだろう。目を開けると朗らかそうな笑顔の人で、少しほっとする。

1日のスケジュールと、それぞれのスケジュールがこなされる場所の説明。森に点在する建物は、a3、c4など、思ったよりドライな名前だった。

「すみません、覚えられないかも…」と言うと、「毎回、声をかけるから、大丈夫大丈夫」と笑顔がかえってきた。

黄色のシーツのベッドルームに案内されて一息ついたあと、さっそく16時からのヨガに参加してみることにした。

森の中の建物に向かう。ガラス張りの部屋は、森に浮いてヨガをしている気持ちになれそうだ。

私のほかには、若い女性の先生と、40代くらいの女性の参加者。

よく考えていなかったけれど、当然先生のガイドは英語だった(ベトナム語でないぶん、ありがたくはある)。inhale…あ、息を吸うかと、一歩遅れで慌ててついていく。

もう1人の参加者は当然のように、ヘッドスタンド(頭立ちのポーズ)もしていた。一方の私は、前屈で膝あたりまでしか届かない身体のかたさ。

先生ともう1人は、当然のように黄色いTシャツで、黒いパーカーの私は森の中で浮いているかんじがした。

なんとか1時間半のクラスを終える。

「リラックスできましたか?」

と先生に聞かれ、「はい、とても」ととっさに答えた。

実際は英語を追い、自分の身体のかたさと筋力不足を痛感する時間が大半だった。ただ最後のシャバアサナーだけは、夕方の森でうたた寝するようで、気持ちがよかった。

森をとおって、夕食が用意されているという食堂に向かうと、そこには何十人もの黄色いTシャツの集団がいた。

レセプションの女性が、スケジュールの説明のときに、ヨガ講師になるための1ヶ月集中クラスの生徒たちがいると言っていたから、その人たちだろう。

シルバーのプレートを持って並ぶと、これまた黄色の服の人が野菜やお米をよそってくれる。

よそわれた食事は、ベジタリアンを超えて、ビーガンだった。卵や乳製品はなく、野菜穀物と豆腐のみ。味付けは塩と少しの醤油。

ベジタリアンになるきっかけになるかなぁと、来る前は少しわくわくしていた。

でも、この食事を目の前にして、思ってしまった。私には、無理だと。

唯一の苦手な食べ物、豆腐。

能天気にわくわくしていた私は、大事なことを忘れていた。ベジタリアン(ビーガンはもっと)にとって、この豆腐というものが貴重なタンパク源であることを。

でも、このごはんのあとは、明日の朝まで食べ物はない。ゆっくり噛んで食べないと、お腹がすいてしまいそうだ。

楽しそうに豆腐を食べる黄色い人たちに囲まれて、はやくも私は、雑多な服装の人が行き交うホーチミンの喧騒と、名物料理・コムタム(豚のせごはん)が恋しくなっていた。

(つづく)

ホーチミンのちょっと高いコムタム。甘辛ダレに漬けた豚肉と半熟の目玉焼きが最高。

ホーチミンのちょっと高いコムタム。甘辛ダレに漬けた豚肉と半熟の目玉焼きが最高。

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