頑張るガールズから、跳ねる犬へ

[日曜の窓辺から Vol.15]遊ぶのが得意な祖母と、これからの旅の話。
やすむ 2022.12.04
誰でも

「朝、すごい楽しそうにしてるゴールデンレトリバーとすれちがったんですよ。飼い主さんが、散歩紐を少し動かすと、『遊ぶの!?』ってぴょんぴょんして。あの図体であんなに跳べるのかってくらい。なんか今、そんなかんじですね」

週末、1ヶ月ぶりの身体調律に行ったら、そんなことを言われた。

引っ越し準備やら、仕事やら、人と会うやらで、運動も疎かになっていて、身体はけっこうばきばき。

一方で、最近いろいろあって、とても久しぶりにバックパッカー旅をしようかという気持ちが、湧いてきたところだった。

最後にバックパッカー宿に泊まったのは、2018年秋のウガンダ。いつの間にか4年経っていた。

最後にバックパッカー宿に泊まったのは、2018年秋のウガンダ。いつの間にか4年経っていた。

夏にはふてくされていた大型犬が、初秋にムエタイをはじめて「悪くないね」とご機嫌になり、今週バックパッカーをしようとなったら「それそれ、最高! 早く行こうよ!」とぴょんぴょん跳ねている。

なんとも不思議なのだけど、かなりしっくりくる自分の変化のメタファーだった。

それでも、こまごまとしたところで、腹を決め切れていない自分がいた。もう少し先にしようかなとか。働いている夫や、子育てや仕事をしている友人たちを横目に、いいのかなとか。職場も夫も友人も「いいじゃん!」と言っているし、安宿・安交通費のバックパッカーなら自分の貯金で問題なさそうなのはわかっているのだけれど。

固くなった右手の骨を触られながら、そんな話をもごもごとした。

「でも、遊びたいんでしょというかんじですよ。責任感とかね、人は他人に興味がないから、3日で忘れますよ。さっきのレトリバーみたいに、あまりに楽しそうな人を見ると、よかったねって幸せな気持ちになりますしね」

遊ぶ。それはなんともシンプルで、「え、いいの?」とまわりをそわそわ見てしまう言葉だった。みんな一生懸命働いている日本社会にいるからだろうか。「仕事が好きだから」と一生懸命10年以上、ほぼ途切れなく働いてきた自分がいるからだろうか。

祖母は遊ぶのが得意な人で、いつも山へ海へと、4人の娘夫婦と10人孫たちを連れていった。あれを食べよう。あのお花を見に行こう。その地の縁の歌を歌いながら、遊ぶアイデアがどんどん浮かんでくる。

大学生になって旅をよくするようになった私は、10人のいとこたちの間でも祖母譲りの「旅がらす」になったねと言われた。

一方で、勉強や仕事をわりと頑張っていたので、祖母本人からは「あんたたちは、“頑張るガールズ”だね」と言われた(「ガールズ」と言うのは、もう一人頑張るタイプの歳下のいとこがいるからだ)。そういうふざけたオリジナルの言葉をつくる人なのだ。

「頑張るガールズ」をするのも、もういいかなぁという気がする。もう全然ガールの年齢でもないし。

「なんだか悩んでいたんですけど、まぁ、そうだよねぇというかんじがしてきました」

「あの、これは身体がどうっていうより、話してたかんじですけど。全然悩んでるかんじはしませんでしけどね」

「ははは、ですよねぇ」

【編集後記】

帰り道、そわそわとものすごく楽しそうに、横断歩道を渡るのを待っているプードルに会った。

信号が変わるとプードルは、ぴょんぴょん跳ねながら、飼い主さんと走っていった。

「このお出かけ、なに?」と、楽しそうな実家の犬。

「このお出かけ、なに?」と、楽しそうな実家の犬。

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